論文日記 2020年4月

4月23日 (木)

'Intermittent Reconnection and Plasmoids in UV Bursts in the Low Solar Atmosphere'

Rouppe van der Voort et al. 2017 (https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2017ApJ...851L...6R/abstract)

[背景]:太陽大気では磁気リコネクションを起源とするエネルギー解放現象がいたるところで起きている。しかしそのエネルギー解放の時間スケールを説明するためにはスイートパーカーの磁気リコネクションモデルでは遅すぎる。近年の理論研究により磁気島(プラズモイド)の形成を通して磁気リコネクションが高速になることが示唆されてきた。この理論に対する観測的証拠として磁気リコネクション中のプラズマ塊の観測がいくつかある(フレア: Ko et al. 2003, 彩層ジェット:Singh et al. 2012)。しかしこのプラズマ塊が理論が予測する磁気島であるという決定的証拠は未だなく、過去の観測は主に撮像観測中心で定量的な物理量を導出できる観測が不足している。

[研究目的]高空間分解能の多波長分光観測によって遷移層で発生する磁気リコネクション現象のUV burstを対象としプラズモイド構造の観測を行なう(UV burstではプラズモイド構造は観測されたことがなかった)。

[新規性]空間分解能が過去の研究よりも高い(SST:0''.08~60km)。分光観測とRadiative MHD計算+輻射合成との比較。

[手法]IRIS衛星による紫外線分光観測とSST/CRISPによるCa II K のフィルター観測(21波長sampling)

[結果まとめ]SST/CRISPを用いてプラズマ塊がアルフベン速度程度で動いているのを観測した。IRISのSi IVの分光観測ではnon-gaussianなプロファイルになっており、プラズモイド磁気リコネクションのMHD計算から導かれるプロファイルと酷似している。

[結論]プラズモイド不安定によって駆動された磁気リコネクションの証拠を低層大気のUV burstにおいて発見した。

[コメント]レターだったので細かい解析や説明は少なかったが、UV burstにおけるプラズモイドの観測は初めてだったので他にも色々できそうな気がした。特に偏光観測を通して新しいことがわかると期待している。

4月24日 (金)

'Bombs and Flares at the Surface and Lower Atmosphere of the Sun'

Hansteen et al. 2017 (https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2017ApJ...839...22H/abstract)

[背景]太陽低層大気(光球~彩層下部)における磁気リコネクション現象としてエラーマンボム(Ellerman, 1917)がよく知られている。エラーマンボムはHa線のwingが増光する現象として定義される。2014年のIRIS衛星打ち上げ以降、UV burstと呼ばれる増光現象が遷移層のラインの増光(Si IV)で発見された。それ以降エラーマンボムとUV burstの関係性(同じものなのか?それとも異なる現象なのか?)が研究されるようになった(Vissers et al. 2015, Tian et al. 2016, Danilovic 2017)。しかしこの議論の決着はついていない。

[研究目的]輻射MHD計算によりエラーマンボムとUV burstを再現し、その関係性を調べる。

[新規性]輻射MHD計算コード(Bifrostコード、Gudiksen et al. 2011)を用いたリアリスティックな計算。通常のMHD計算に輻射の物理が考慮されていることに新規性がある。

[手法]Bifrostコードを用いて浮上磁場の計算。その後Non-LTEの輻射輸送計算を行い、HaやMg、Siの輻射合成を行なっている。

[結果まとめ]合成されたラインは観測された結果と非常に似ていた。エラーマンボムとUV burstは磁気リコネクションが起こる高さと関係している。リコネクション点が低い場合(数百km)はエラーマンボムの傾向を示し、高くなると(千~二千km)、UV burstの傾向を示す。リコネクションの高さが変わると背景のプラズマベータが代わり、解放されるエネルギーも変わってくる。今回の計算では過去の観測で確認された、UV burstとエラーマンボムが同時に発生するというイベントを再現することはできなかった。

[結論]エラーマンボムとUV burstの違いは磁気リコネクションが起こる高さの違い。

[コメント]現在自分の研究でもこの計算結果を使わせてもらっている。Sunrise気球実験の観測ではこの高さの違いを多波長観測から分解できるようになると面白いかなと思う。昨日紹介した論文のプラズモイド構造とかもこの計算の中にみえていないのかなとかも気になるので、もっと解析してみたい。

4月25日 (土)

'Statistics, Morphology, and Energetics of Ellerman Bombs'

Georgoulis et al. 2002 (https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2002ApJ...575..506G/abstract)

[背景]エラーマンボムは太陽大気で観測され、Hα線のwingの増光現象として定義され(昨日も書いたが、、)、磁気浮上領域で頻繁に観測される。サイズは約1秒角、寿命は10-20分。エラーマンボムはかなり昔から知られているが(Ellerman, 1917)、その駆動機構については未解決問題である。

[研究目的]エラーマンボムの駆動機構に迫るため、エラーマンボムの発生、形状、エネルギーについて統計解析を行う。

[新規性]気球観測による世界初のシーイングフリーのエラーマンボム観測。大量に観測されたエラーマンボム(593例)の統計解析。 

[手法]Flare Genesis Experiment (気球実験)によるシーイングフリー観測(17日間)。口径80cmで空間分解能0".5(Ca I 6122.2A) or 0".8 (Ha)。Ca Iの偏光分光観測からベクトル磁場と視線速度分布を導出。Haはフィルターグラム観測。

[結果まとめ]検出されたエラーマンボムは閾値によって数が変わるがバックグラウンドに対して5%を閾値にすると593イベント。エラーマンボムは似た場所で再発し、高度は彩層下部あたりである。よく発生した場所は、光球の磁気中性線、磁気中性線ではないが、元からある磁場と浮上磁場が相互作用するような場所。典型的なサイズは1".8x1".1。エラーマンボムのエネルギーは10^27-10^28erg。温度上昇は~2000K。放射冷却の時間スケールは短く、約数秒。

[結論]エラーマンボムの駆動機構の候補として光球彩層付近の磁場の乱流的振る舞いによる磁気リコネクションが考えられる。エラーマンボムのエネルギーは活動領域付近の彩層を加熱するのに十分なエネルギーを持っている。

[コメント]かなり昔の論文だが頻繁に引用されているので読んでみた。ここで提示されている磁場構造は現在でも観測的に示された例はほぼないと思うので(勉強不足だが)、DKISTやSunriseで観測対象になると思う。分量が多かったのでちゃんとは読めなかった。時間があるときにもう一度じっくり読まねば。

4月26日 (日)

'Plasmoid-mediated reconnection in solar UV bursts'

Peter et al. 2019 (https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2019A%26A...628A...8P/abstract)

[背景]太陽遷移層の温度帯でみられるUV burstに着目した研究。磁気リコネクション起源のイベントであることは知られているが、観測される分光プロファイルをモデルで再現するのが困難であった。Innes et al. (2015)によって電流シート内にプラズモイドが形成されていると、上手く観測されたプロファイルが再現できることが示された。一方で以下に述べるようないくつかの未解決問題がある。

[研究目的](1)どのように電流シートは形成されるのか。(2)異なるプラズマベータ環境において大気はどのように磁気リコネクションに応答するのか。(3)爆発的イベントはなぜ遷移層の温度帯でしか見られずコロナでは見えないのか?の3点について調べる。

[新規性]電流シートを初期条件から与えるのではなく、水平方向の速度場を与えることで動的に作るようにしている。

[手法]2次元のMHDシミュレーション。空間分解能 5km(水平)x1.2km (鉛直)。光球から2000km上空まで計算。異なるプラズマベータでも計算。

[結果まとめ] 一方向への水平運動によるself-consistentな電流シート形成のなかで、プラズモイドが形成された。高プラズマベータ環境(beta>0.5)急激な運動エネルギーや温度上昇は確認することはできなかった。今回の駆動機構では高ベータでの磁気リコネクション(エラーマンボム)は起こすことができない。エラーマンボムを起こすためにはConvergingの流れが必要になるのかもしれない。低プラズマベータになるにつれて、加熱や加速が強くなっていく。しかし太陽大気におけるプラズマベータは10^(-4)以下までは下がらないので加熱温度は10^5K以上には上昇しない。

[コメント]シミュレーション結果から数百kmのプラズモイドが見えていた。将来観測ではこれらが分解できるかもしれない。


4月27日 (月)

'Ellerman bombs and UV bursts: transient events in chromospheric current sheets'

Hansteen et al. 2019 (https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2019A%26A...626A..33H/abstract)

[背景] Hansteen et al. 2017 (4月24日)の続き。先行研究ではエラーマンボムとUV burstをそれぞれ再現することはできていたが、それらを同時に起こすことはできていなかった。

[研究目的]エラーマンボムとUV burstを同時に起こすモデリングを行う。

[新規性、手法] Hansteen et al. 2017から空間分解能をあげた。また浮上磁場と相互作用する上空の磁場強度も増加させた(0.1G->2G at 10Mm)。

[結果まとめ、結論]エラーマンボムとUV burstを同時に発生させることに成功した。それぞれ長い電流シートの端点で起きている現象である。


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